2017年のruby-mswin事情

おしらせ

以下に最新版があります。 qiita.com

WindowsRubyを使うのは難しいようで簡単なようで難しいことです。

ただインストールするだけならばインストーラがあるので簡単です。公式サイトのダウンロードページから探しましょう。

……ここでいきなり迷うであろうのが、"mswin"と"mingw"という語です。Unix系のOSではABIは通常一環境に一つです。しかし、Windowsではたくさんあります。64bit版Windowsでは32bitのバイナリも動かすことが出来るのと、最近までVisual Studioはバージョンアップの度にABIを変更していたため、2017年現在では以下のようなABIが存在します。

  • i386-mswin32
  • i386-mswin32_70
  • i386-mswin32_71
  • i386-mswin32_80
  • i386-mswin32_90
  • i386-mswin32_100
  • i386-mswin32_110
  • i386-mswin32_120
  • i386-mswin32_140
  • x64-mswin64_80
  • x64-mswin64_90
  • x64-mswin64_100
  • x64-mswin64_110
  • x64_mswin64_120
  • x64-mswin64_140
  • i386-mingw32
  • x64-mingw32

あとcygwinとかinterix、WSLですか。さて、挙げたうちの上の15個、mswinとあるのがVisual C++版で、下の2個がmingw版 (gcc版) です。i386-mswin32とi386-mingw32だけ互換性があることを除けば、あとはABI互換性がありません。一応付け加えると、ついに近年Microsoftも心を入れ替えたらしく 1、Visual C++ 2015と2017はABI互換性があり、ともに末尾140のものを使います。よかったですね。

さて、どの版を使うのが安心かですが、WindowsRubyを使う際の難しさはたいていが拡張ライブラリ絡みであることはそろそろ知られていると思います。つまり使いたいgemがバイナリgemで提供されているものを選ぶべきですね。たとえばNokogiriを見てみましょう。i386-mingw32版とx64-mingw32版が提供されていることがわかります。

mingw版とバイナリgem

他にもmingw版のバイナリgemが提供されているgemはmsgpackやffiなどいくつかあります。これはrake-compiler-dockを使うとdockerを使ってクロスコンパイルをしてくれる便利ツールがあるからです、みなさんもC拡張gemを作る場合は導入をぜひご検討ください。

mswin版を選ぶと言うこと

という世界の現実に抗いたい、そういう人もいると思います。Visual C++が好き、そういう人もいるでしょう。現代ではMicrosoftVisual StudioIDEを含む全てではなく、コンパイラだけを配布してくれるようになったので、VCのインストールも随分楽になりました。まだVisual C++ 2015または2017が入っていない人はBuild Tools for Visual Studio 2017をダウンロードして実行、個別のダウンロードで以下にチェックを入れてインストールします。

  • Windows ユニバーサル CRT
  • デスクトップ C++ x86 および x64 用 Windows 10 SDK (10.0.15063.0)
  • スタティック分析ツール
  • VC++ 2017 v141 ツールセット (x86,x64)
  • Visual C++ Buid Tools のコア機能

あとはスタートメニューからx64 Native Tools Command Prompt for VS 2017を選べばビルド環境が立ち上がります。

なお、blogによると自動インストールも可能なようですが、その際の最適なオプションの探求は読者の宿題とします。

Rubyの依存ツール

リリース版のtarballからビルドする場合はともかく、リポジトリからRubyをビルドするには色々なものが必要です。以前git for Windows SDKを用いると楽って話を書きましたが、現在ではRubyInstaller2でもいいかもしれませんね。pacmanからx64-mingw64版のautoconf, bison,rubyなどを入れて(例えばmsys版だとパス変換があるのでうまくいかない)、インストール先をcmd.exe側のPATHに足せば良いです。ここでの注意点はこれでインストール出来るのは実行ファイルだけなこと。ライブラリは前述の通りABIが異なるためMSYSではインストール出来ません。

Rubyの依存ライブラリ

依存ライブラリは従来は一つ一つ自分で調達する必要がありました。(たいへんだった)けれども最近vcpkgというMS謹製パッケージマネージャが登場しました。これを使うとopensslやzlib、libxml、libxsltなどを簡単にインストールすることが出来ます。

vcpkgのリポジトリをcloneしてcdし、

bootstrap-vcpkg.bat
.\vcpkg --triplet x64-windows install libxml2 libxslt openssl

あとはPATHに/vcpkg/installed/x64-windowsをいれ、win32\configure.bat --with-opt-dir=/vcpkg/installed/x64-windowsなどでRubyのビルドが出来るはずです。

また、gem install nokogiri -- --use-system-libraries --with-xml2-dir=/vcpkg/installed/x64-windows --with-xslt-dir=/vcpkg/installed/x64-windows --with-exslt=/vcpkg/installed/x64-windowsなどと指定すればnokogiriだってビルド出来ます。

Nokogiriが入れられたと言うことはつまり、最新のRailsが動くということですね。ぱちぱちぱち

残る問題

上記以外でよく必要とされる拡張ライブラリというと、readlineとtherubyracerあたりでしょうか。therubyracerはまぁexecjsとnode.exe使って回避すれば良いとして、readlineはどうすればいいんでしょうね。rb-readlineは日本語対応してなかった気がするし。Clang/C2でビルドって出来るんでしょうか。readlineは今でも勇者の登場を待っています。